第二章



「今の家が不調和を呼ぶ理由」

最近、特に女性の社員に言われることがあるんです。
のぞみさん
どんなことですか?
「最近の家って、気密性能とか断熱性能とか防火性能なんかを上げることばかりに躍起になっていて、窓も少なくてどこか息苦しい感じがする。」と。
のぞみさん
それ!わかる!
ひろゆきさん
でも、寺崎さんのところの家も高性能をうたってますよね?
そう。もちろん。そういう家を建てているし、時代に求められていることもあって、それをすれば住みやすくなるとわかってやっているのですが、女性の意見って貴重だと思うんですよね。だって家に長くいるのは女性の方だし、その女性がそう感じているということは女性の本音だと思うんです。
のぞみさん
ほんとそう!メーカーの人の意見とか聞いていても、今の家ってものすごく男性的。性能とか仕様がよければOK!みたいな。住むのは私だし、その女性従業員さんの気持ち、ものすごくわかる。
私も男性だから耳が痛いところでもあるんですが、今の家づくりというのはそうなっているんです。でも、男性的な考えがすぎると、どんどん息苦しい感じの家になってしまう。のぞみさんが言うように、住むのは奥さんなのに、どんどん男性的で、頭でっかちの家になりがち。それが結果、奥さんと子どものとっての見えない壁になってしまったりする。
ひろゆきさん
僕も耳が痛いですよ。多分、僕が良かれと思って考えた家が、そうなってしまっていて、それにのぞみが気づいたんでしょうから。
私が言いたいのは、高性能な家がダメというわけではなく、家づくりにおいての父親としての役割です。良いものを持ってきて、それを組み合わせるのが家づくりにおいての父親の役割ではなく、家族を調和させることが役割だとしたら、違う視点が求められる。そしてそのやり方はネットには落ちていないし、落ちているだけの情報を組み合わせると、知らず知らずのうちに、頭でっかちの見えない壁を作ることになっちゃう。
のぞみさん
私、住宅の提案を聞いていたんですけど、なんか私たちの家なのに、工業製品を作っているような、「あるものから選んでください」みたいな。単一的で個性がないというか。そんなの私たちの家なの?ってずっと思ってきたんです。
のぞみさん、なぜ、のぞみさんたちの家づくりにそう感じたのかわかりますか?
のぞみさん
うーん、わからないけどなんかバラバラ。
そう。その家づくりというオーケストラに ”楽譜がない” からなんですよね。楽譜がないから共鳴できないし、夫婦揃ってお互いが好きなものを言い合ったり、持ち合ったりしちゃう。このことが実は、昔も今も変わらない、家づくりにおいて、一番の見えない壁を作る原因であって、現代は情報が多いためにひどくなっているみたいな感じなんですね。
ひろゆきさん
楽譜?家づくりにおいての楽譜とはなんですか?
私の父親の例でお話しすると、彼は家族のために家を建てたいという良心を持っていた。でもそれだけだった。良かれと思って考えた家は見えない壁を作り、そこに住む家族を疲弊させた。
ひろゆきさん
え?家族のために家を建てたいと思って建てたら見えない壁が作られるんですか?
もし、父親がそれだけしか考えていないと、今の家が手狭だから部屋を増やそうとか、今不便なものを便利しようとか、そんな発想で家を建ててしまうことになるんです。その時、昔と今では、その選択肢が多いことが違うだけで、家づくりはただ今より良くしようと考えるだけでは、家族を一つにはできない可能性があるんです。
ひろゆきさん
じゃあ、何を考えたらいいんだろう?僕が考えた間取りや設備も、今の家より良くしようと思って考えましたし、床暖房とかもそう。それじゃダメなんですか?
ダメではないですけど、それが結果的に、家族の不調和音を呼ぶものであれば、意味がないですよね?だから、どんな楽器を採用するか?どんなテクニックで演奏するか?現代の家づくりにおいては、その種類が多いなら、ますます指揮者にとって、楽譜が重要なんですね。そして、その楽譜とは、これ、意外なんですけど、ひろゆきさんが ”心から欲している家を明確化すること” なんです。
ひろゆきさん
僕が心から欲している家ですか…。
今の家が手狭だからとか、家賃がもったいないからとか、これを採用したら奥さんが喜ぶだろうとかではなく、ひろゆきさんが心から欲している家のイメージ。それがひろゆきさんご家族の家づくりの楽譜になります。そしてそれを考えてくれる時間をとっていないこと、これが夫婦に亀裂を生む、大きな要因になる。家づくりを通じて夫婦仲が不仲になるのはこれが主な原因です。
のぞみさん
あ!その通りだ!私はひろゆきに、もっと家族についての時間をとって欲しかったんだ!今のままで家づくりが進むと絶対ダメだって思っていたし、もっともっと私のためのために時間をとって欲しかった。
ひろゆきさん
そんなことを考えていたのか…。
のぞみさん
だって私と子どもが住むんだよ。家電製品を買うわけじゃないわけだし。
ひろゆきさん
いや…、考えていたつもりだったんだけどなあ。
ひろゆきさん、僕も男だからわかりますが、女性はその十倍を求めてますよ。
のぞみさん
ええ。
ひろゆきさん
そうか。でも、なぜ家づくりの楽譜が、僕の心から欲する家のイメージなんですか?妻ではなく。
ひろゆきさんの本心から建てたい家を考えることが、結果、奥さんや子どもさんのことを考えることになるからです。家族の大黒柱としてですね。自分のことを考えられない人に人のことを考えるのは難しいところがあるのと同じで、家づくりで家族のことを考えるなら、まずは自分の心から欲している家を考えるの先。それがベースになって、楽譜になって、そこに奥さんであるのぞみさんが乗っかることで、家というオーケストラは作られていく。ちょっと抽象的な表現ですが、これを行って、変な家になったことを私は知りません。少なくとも私の過ごした家では、私の両親の間で、そんな作業は行われていませんでした。
ひろゆきさん
だから疲弊したのか。僕がやってたことは寺崎さんのお父さんと同じだったかもしれないな…。どこか他人ごとで、妻に対して、「これを選んでおけば良いだろう!」と思っていたかもしれない。
家づくりって男性が思うより女性にとっては人生の一大事なんですよね。だから一緒になって考えて欲しいし、その時にもし、時間をとってくれるのが少なかったとか、無関心だったとか、そんな不足感が奥さん側に残ったら、それは奥さんにとっての見えない壁になる。
のぞみさん
寺崎さんのいう通り!私はひろゆきにもっと考えて欲しかったの。全然足りてない!もっともっと考えて欲しい!
ひろゆきさん
危ない。家づくりでのぞみに不満を残すところだった…。
のぞみさん
このまま建てていたら、ずーと恨みとして残っていたかもね。
今はそんなことを思っていなくても、家が完成した後、ちょっとした不満が出てきたりすると、「あの時、もっと考えて欲しかった…」とか、理由はわからないんだけど、心の空虚感なんかが芽生えたりする。それは家の中で長く過ごす女性だからこそ余計そういうことが起こって、気づけば夫婦の間に隙間風が吹いたりする。気が行き交うどころか、エントロピーが増大していく。エネルギーが下がる。今思えば、私の母も多分、父に対してそんな感情を抱いていたのかなと思いますね。
のぞみさん
大丈夫。私はそんな家、建てさせませんからね!
ひろゆきさん
お、おう。
現代の家づくりは情報がとにかく多い。オーケストラで言うと採用するべき楽器が多い。でもそれが多すぎて、楽譜がない状態で「これも必要かな?あれも必要かな?」って組み上げていくと、余計にバラバラで共鳴できない家になりがちなんです。そしてそれがその家に見えない壁を作ってしまう。情報が多い今だからこそ、ひろゆきさんは楽譜を手に入れる必要があります。それを手に入れた上で、ひろゆきさんご家族にとって本当に必要な楽器を選ぶ必要があるのではないでしょうか?
ひろゆきさん
確かに。そうやって採用したものならのぞみも納得してくれそうですね。でもどうやってその楽譜を手に入れればいいんだろう?
ひろゆきさんの家づくりの楽譜の手に入れ方、お教えしましょう。

第三章へ続く

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